福福通信
2025.07.31
伏見撞木町の密謀と焼売の真心 〜大石内蔵助が通った味の町〜

伏見の町を歩くと、そっと風に揺れる石碑が目に入る。「大石良雄遊興の地 萬屋跡」――これは只者の記念ではござらぬ。こここそ、忠義の人・大石内蔵助殿が日々通い、心を偽り、敵を欺いた場所にて候。
撞木町(しゅもくちょう)――その名の由来は、鐘を打つ撞木の形を町がなぞらえていたことに因む。かつては島原と並ぶ格式を誇り、芸妓・太夫らが粋と情を競い合った場所にて候。
中でも「萬屋(よろずや)」は、撞木町の入り口を飾る名店として知られておった。大石殿が通い詰めたもうたこの地には、ただの遊びの風は吹いておりませぬ。敵を欺き、策をめぐらし、真の義を貫くための、深き深き“芝居”があったのでござる。
その芝居の舞台が、まさにここ、萬屋であったのじゃ。彼が浮橋太夫と語らい、盃を傾ける姿を見た者の中には、何者とも知れぬ風格を感じたであろう。討ち入りのその日、すべてが繋がり、人々は知るに至った――あれは、義士の策であったのだと。
いま、萬屋の建物は既になく、そこにあるは石碑ひとつ。しかし、その静けさの中に、かつての密謀と志が今なお息づいておる。歴史とは、ただ書き記すものにあらず。こうして町に刻まれ、人の心に残るものにて候。
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本日の献立:昔ながらの焼売とともに
本日の一品は、「昔ながらのシュウマイ」。
細挽きの豚肉をふんわりと包み、玉葱を用いぬことで肉の旨味を際立たせておる。中にしのばせたクワイが、シャキリと音を立てて口中に広がる時――まさに一服の風が通りぬけるが如し。皮は極薄、かつ、舞妓も一口で食せるよう仕立てた寸法にて候。
かつて萬屋で密談を重ねた大石殿が、もし現代に蘇らば――この焼売をひとつ頬張り、「これぞ真の策なり」と膝を打つやもしれぬ。