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2025.05.07
【雨上がり、玉の如き香りに包まれて──塩焼売仕込み之記】
雨上がりの朝、伏見の町はしっとりと潤い、石畳にはまだ水滴の残り香。軒先には雫が名残惜しげに垂れ、空はようやく鈍き灰から薄曇りの青へと衣替え致した。
されど、天候が回復しようとも、台所に立つ者にとっては、むしろここからが勝負でござる。
なぜなら、雨上がりの空気というものは、湿気を多分に含み、食材の扱いも変われば、蒸気の回りも微妙に変わるゆえ、我ら職人は五感を研ぎ澄ませねばならぬのだ。
本日仕込み候は、「塩焼売」四百五十個。
使うた素材は、いつもの国産豚挽肉、そして……今日の主役にして一癖ある名脇役、新玉ねぎ。
この新玉、季節の走りにふさわしき瑞々しさと香りを持ち、包丁を入れた刹那、空気に甘き香が立ちのぼる。
まるで朝露まとった若葉の如く、やわらかく、透き通る白玉のような身。
されど、その美しさの裏には、水分の多さという、厄介なる特性が潜んでおる。
刻んで練り混ぜ、肉と合わせしところ──
普段ならばしっかりとまとまるはずの餡が、ふにゃりと緩み、手の中で“つかみどころのない粘り”となりて、まこと扱いづらし。
玉ねぎの甘き香りに反して、これはなかなかの手強さ。
「うむ……これは皮に包みたくとも、まとまらぬぞ」
と、職人衆の手も一瞬止まり申したが、そこは百戦錬磨の仕込み方。
冷やして馴染ませ、手早く包む。水分の逃げ場を見極め、時間と温度にて調整を加えるのが、点心の“裏奉行”たる我らの技にて候。
皮はいつもより厚みを気持ち調整し、餡の水分に負けぬよう支える。
包み上げる際も、掌の圧でなく、指の“間”で形を整える技が光る瞬間でござった。
そうしてようやく蒸し上がりし「塩焼売」──
蒸篭の蓋を開けたとき、立ちのぼる香に一同思わず頬緩む。
肉の旨味と、新玉ねぎの甘みと水分が織りなす香りは、まるで初夏の宵に吹く、南風のごとし。
一口召し上がれば、まず舌を包むのはとろけるようなジューシーさ。
この水分量の多さが、結果として焼売の中に“隠れた出汁”を宿し、口の中で弾けて広がる様は、まさに職人冥利に尽きる一瞬にござる。
「困難の先に、旨味あり」
食材のクセも、扱いの難しさも、すべて知恵と工夫で活かしきる。
それが、点心に身を捧げる者の誇りというものでござる。
なお、この「塩焼売」も、只今冷凍お取り寄せ対応中。
電子レンジで簡単調理、それでいて蒸したてのふくよかな風味をそのままご家庭にて味わうことが叶いまする。
お探しの際は、「京都餃子」「点心」「シュウマイ」「お取り寄せ」「業務代行」などの語にて検索くだされば、我ら「京都点心福」の逸品がすぐに見つかりますぞ。
新玉ねぎの季節は短し。
しかし、その一瞬の旬を生かして焼売に込める──それが「季節を包む点心」の真骨頂。
次の仕込みもまた、天の気配と、地の恵みを受け、我らが手でひとつひとつに心を込めてまいりまする。
では、また次の仕込み日和にて。
本日は、甘き新玉ねぎと格闘した、忘れがたき一日となり申した。
──点心奉行・拝