2025.05.13
春もたけなわ、立夏を越えてなお、伏見の空には清らかな風が通り抜け、琵琶湖疏水の水面は柔らかく揺れておる。
この水路、琵琶湖より引かれた命の流れにして、古より洛中洛外の暮らしを支えし静かなる英雄なり。
その疏水沿い、本日ふと目をやれば、水辺にて羽を休めるは、キンクロハジロと見ゆる渡り鳥。
漆黒と白の羽を携え、まるで和装のような趣にて、春の終わりを惜しむように漂うその姿、誠に見事なり。
冬を越え、北国への帰路に就く前の束の間の休息と見ゆ。伏見の地が、旅の道中、羽を休めるにふさわしい景と成り得たこと、喜ばしきことにござる。
さて、われら厨房においてもまた、自然の恵みと旬の彩りを包み込み、日々の仕込みに励んでおる。
本日はとりわけ手間と心をかけし、ふたつの餃子の仕込みに精魂を傾け申した。
一つ目は、「九条ネギ餃子」──
京の伝統野菜として名高き九条ネギは、この時期やわらかく、香り高し。
その繊細な甘みを活かすため、豚肉は粗挽きにて旨味を残し、調味は控えめに。
ネギのとろりとした食感が、皮を通してふんわり立ち上がる蒸気とともに、口いっぱいに広がるよう設計いたした。
本日は1,200個、丁寧に包み上げ、冷凍にてお客様の元へ届けられる日を待つばかりなり。
二つ目は、「紫蘇餃子」──
こちらは初夏に相応しき清々しさを纏う逸品にござる。
青じその葉を刻み入れ、挽き肉に絡めて包むことで、噛んだ瞬間にふわりと香りが抜け、後口さっぱり。
暑さを先取りするような日には、まことに好まれる点心にて候。
仕込み個数は千、いずれも一つ一つ手作業にて包み、形・重さ・皮の張りともに均一を心がけ、すでに冷凍保管所にて待機中なり。
点心とは、単なる食品にあらず。
それは季節と人の心を包み込む「一瞬の詩」であり、「舌に記憶される風景」にほかならぬ。
九条ネギのほの甘さも、紫蘇の清らかなる香りも、今この時期を逃しては得られぬ味わい。
渡り鳥が旅路の途中で羽を休めるように、日々を生きる人々にとっての「ひとときの癒し」となるよう、我らの点心がその役目を果たせれば、これに勝る喜びはござらぬ。
かくして、本日の仕込みも無事完了。
琵琶湖疏水に映る夕暮れを横目に、職人たちは包丁を置き、次なる仕込みに備えておる。
明日はまた、新しき食材が届く予定。
初夏の便りを、点心という形にて包み込む仕事、これよりも続き申す。
それでは皆々、また次回の台所日誌にてお会い仕りましょうぞ。
敬白
京都点心福 シュウマイ奉行拝