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2025.05.19

【令和七年 皐月十九日 伏見奉行記】

―八幡の流れ橋に寄せて―

【令和七年 皐月十九日 伏見奉行記】

―八幡の流れ橋に寄せて―

 五月も半ばを過ぎ、青葉繁れる京の景色が日毎に濃くなって参った。折しも本日、所用ありて京都府八幡市まで足を運び、名高き「流れ橋」へと立ち寄った次第。名を「上津屋橋(こうづやばし)」と申すが、地元の者や通人の間では「流れ橋」との通称にて親しまれておる。

この「流れ橋」、その名の通り、増水時には橋桁の一部が流される仕組みにござる。無粋なようでいて、これがまた理に適った構造。木製の橋脚に橋板を載せるのみの設計ゆえ、川の水が増せば自然と板が外れ、水に逆らわずに流れてくれるのでござる。橋を壊さぬための知恵、すなわち「壊さぬために流す」という逆転の発想、まさに先人の工夫が光る木橋の極みと申せましょう。

その長さ、実に三百五十メートルを超え、木造橋としては我が国でも指折りの規模。木橋の中では「日本一長い流れ橋」と称され、時代劇の撮影にも幾度となく登場しておる。『暴れん坊将軍』や『水戸黄門』の一幕を思い出す御仁も多かろう。風吹き抜ける川べりに、旅装束の主人公が立つ姿――あれこそが、流れ橋の絵になる風景にござる。

この橋、初めて架けられしは昭和二十八年(1953年)のこと。木津川にかかる生活橋として、上津屋地区の住民により築かれ、以来、幾度の洪水により橋板が流され、都度修復されてまいった。平成、令和に至るまでその繰り返しにて候。流されるたびに蘇る橋――まさに不死鳥のごとき存在とも言えましょうな。

橋を渡りながら、ふと川面に目を落とせば、水鳥の姿が見え隠れし、初夏の風が頬を撫でる。眼前には青空広がり、右に左に風にそよぐ草花たち。人工物でありながら自然と融け合うその姿は、時代の喧騒を忘れさせてくれる不思議な力を持っておりまする。

拙者、伏見にて点心業を営んでおる身なれど、かような場所に立てば心洗われ、また明日からの仕込みに向けて気を正す思いにござる。

「流れ橋」は、壊れぬために一度、身を任せて流される。人の生き方にも通じ申す。耐えるだけではなく、しなやかに、時に委ね、時に立ち戻る。その循環こそが、永く続く秘訣。点心作りにおいても、同じこと。頑なになるばかりではなく、時の流れと材料の声に耳を傾けながら、常に変化と調和を重ねてこそ、真の旨味が生まれるのでござる。

ちなみに、橋の両岸は桜や菜の花の名所でもあり、春の盛りには多くの見物客で賑わう名所。秋にはすすきが揺れ、冬は霜をまとい、四季折々に姿を変えるこの橋は、まさしく京都の風景の縮図のようでもございます。

本日、流れ橋を渡りし折、拙者が思い浮かべたのは、わが点心に託された想い。橋が人を繋ぐように、我らの点心もまた、人と人、世代と世代を繋ぐ存在でありたい。遠く離れた地に届けられる箱の中に、京都の風と心を詰めて――。

さて、明日より再び、工房にて心静かに仕込みに勤しむ所存。流れ橋にて得た風と学びを胸に、また一歩、前へと進むといたそう。

かくなる上は、皆々にもぜひ、八幡の流れ橋へ足を運ばれ、橋のたたずまいと風の香りに身を委ねていただきたく、候。

拙き筆にて失礼仕る。


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