奉行と呼ばれる以前──その者は20年余り、中華料理の世界を渡り歩いてきた職人であった。 若き日にはホテルの厨房で腕を磨き、偶然の配属で点心部門へ。 上海料理を基礎に、香港出身の点心師から本場仕込みの技を学び、さらには四川系の巨匠のもとで、辛味の扱いや技術の奥義をも会得。 帰京後は、北京料理や日本独自に進化した広東料理にも身を投じ、中華四大系統すべてを実践的に体得するに至ったのである。